けんのへや

工学院大学情報学部情報通信工学科 先進ネットワークシステム研究室のブログです

光ファイバを用いた基幹ネットワークについて

はじめに

工学院大学 電気・電子工学専攻修士2年 先進ネットワークシステム研究室の関です。 当研究室では、主に新しいネットワークの設計や既存ネットワークの効率的な利用に向けた研究を行っています。 本記事では、光ファイバを用いた基幹ネットワークで利用される多重化方式(大容量の伝送路を複数の通信で共同利用する方法)を用いたネットワークの一部を紹介いたします。

  • 波長分割多重方式 (WDM: Wavelength Division Multiplexing)
  • 光直交周波数分割多重方式 (O-OFDM: Optical Orthogonal Frequency Division Multiplexing)

紹介内容

本記事では以下の2種類のネットワークついて書かせていただきます。

  1. WDMネットワーク
  2. エラスティック光ネットワーク

フォトニックネットワーク

フォトニックネットワークについて建設電気技術協会はこのように説明しています。

フォトニックネットワークは、ルータ/スイッチで行う伝送、多重化、多重化された信号の分離、スイッチング、ルーティングなどのネットワーク機能を、全て光技術だけで行うネットワークです。

また、従来のネットワークの問題点について、同記事で以下のように書かれています。

従来のネットワークは、伝送メディアに光ファイバを、信号の増幅に光増幅器を用いていましたが、回線のスイッチング(交換)だけは、光を一度電気信号に変換した上で電気的にスイッチングを行っています。ネットワークの通信容量のボトルネックは、この電気スイッチング性能において存在していました。

フォトニックネットワークについてまとめます。

  • 伝送される光信号を光電変換を行わずにスイッチングし、目的のアドレスまで届けられるネットワーク
  • ネットワークの通信容量のボトルネック(制約)である光電変換を行わないため、従来の電気-光ネットワークの性能をはるかに上回ることが可能

以上を踏まえて、多重化技術を用いたフォトニックネットワークについて述べます。

WDMネットワーク

従来のフォトニックネットワークでは、一つの光ファイバに一つの光を通し、これを点滅させて信号を送っていました。 これまではそのような構成のネットワークで伝送速度を上昇させていけば対応可能なデータ通信量でしたが、近年モバイルデータトラフィックの増加が著しく1、ネットワークに多重化技術を用いる必要性が生じました。 ここで注目されたのがWDMを用いたネットワーク(WDMネットワーク)です。 現行のネットワークはWDMネットワークです。

特徴

WDMネットワークでは、一本の光ファイバ内部に存在する一心のコアで複数の光信号を伝送します。 WDMのイメージ図を示します。 WDMイメージ 送信器側はそれぞれの送信機(半導体レーザー)から発せられる光を個別に点滅させ、それぞれの光を合波器(Mux:Multiplexer)により合波し、それを一心のコアで伝送します。受信器側は分波器(DeMux:DeMultiplexer)が受け取った光(合波された光)を合波前の光に分波し、分波後の光をそれぞれの受信器(光検出器)に送る処理をします。

特筆すべきことは一心のコアに複数の光信号をまとめて流している点です。
複数の光信号に色(波長)を割り当てることにより、一本の光ファイバで複数の通信を行うこと(多重化)が可能となりました。 従来のネットワークでは1つの波長で信号を送信するのに対し、WDMネットワークでは2つ3つ、それ以上の波長を用いて多数の信号を送信することができます。

CWDMとDWDM

WDMネットワークでは多数の波長を使うほど多くの信号を送信できます。 しかし、多くの波長を使うには一定の波長帯を狭い波長間隔で分割する必要があり、ネットワークを構成する部品等を高精度とする必要があります。 当然コストがかかるため、国際電気通信連合の一つである電気通信標準化部門のITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)では、用途に応じたWDMの波長間隔としてCWDMとDWDMの2種類を定めています。 CWDMとDWDMの波長間隔のイメージを示します。 CWDMとDWDMの波長間隔の違い 信号A,B,Cがありますが、それぞれ利用する波長に相違ありません。 しかし、限られた波長帯をより多数に分割しているのはDWDMです。 したがってCWDMと比較してDWDMの方がより周波数の利用効率が良いと言えます。

雑にまとめると以下の通りです。

  • DWDM:多くの波長を扱えるが高コスト
  • CWDM:DWDMと比較して扱える波長は少ないが低コスト

項目のまとめ

WDMネットワークは、光ファイバそのものを増築せずとも通信可能容量の増加を実現しました。 その背景には通信に利用できる周波数資源の効率的な利用があります。 WDMにはCWDMとDWDMの2種類が存在します。 本稿はあくまで本研究室の研究テーマを理解する上で必要な知識の概要までしか触れません。 興味がある方は自分で調べてみることをお勧めします。

エラスティック光ネットワーク

帯域幅の需要が年々増加傾向にあり、2020年には1000Tb/s以上のスループット必用である見込みが立てられています。 前述のWDMネットワークではこの需要を満たすことが困難なため、新たにエラスティック光ネットワーク(EONs:Elastic Optical Networks)が注目を集めています。 EONsとは、無線通信で利用されている多重化技術の直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を光通信に応用し、WDMネットワーク以上に周波数を効率に利用可能としたネットワークです。 現在は研究段階の技術ですが、多くの論文が発表されており、今後の基幹ネットワークを担う可能性が高いです。

特徴

EONsとWDMネットワークの違いを示します。 WDMネットワークとEONsの違い(イメージ図) (引用:先進ネットワークシステム研究室)

この画像から読み取れるのはWDMネットワークとEONsそれぞれの周波数利用効率の違いです。

WDMネットワークでは限られた周波数帯域をいかなる通信にも均等に配分しているため、実際には使用されていない帯域が存在しています。対するEONsはそれぞれの通信に必要な帯域を無駄なく割り当てることで、未使用帯域を減少させることが可能となりました。

WDMネットワークとEONsの違い(周波数帯域)

この画像はWDMネットワークとEONsの周波数利用効率を周波数帯域に着目して示したものです。 WDMネットワークでは、一つの通信を一定に分割した周波数帯域に一つの波長を割り当てて成し遂げていました。 EONsでは、一つの通信をさらに細かく分割した周波数帯域に複数の波長を割り当てて成し遂げます。 これにより少量のデータ通信に対し、余分な帯域を使用することは少なくなります。また、大量のデータ通信に対しても柔軟に対応することができます。 WDMネットワークと比較してEONsでは周波数帯域の余りを減少させています。 分数で言うところの分母を大きくしたというのが近いかもしれません。

研究室との関連性

周波数帯域をより効率的に利用できるEONsでも未だ解決されていない問題があります。 代表的なものがRSA問題です。 RSA問題とはルーティング(Routing)、波長割り当て(Spectrum Allocation)をいかに行うかを決定する問題です。この問題は多くの論文で議論されており、本研究室でもそれをテーマとした研究が行われています。 RSA問題が発生する理由は説明するのに多くの知識を必要としますので、本稿では省略させていただきます。 興味がある方は調べてみてください。 また効率的な解決案がある方は、ぜひお話を伺わせてください。

検索をかけるときは「RSA問題 エラスティック」のようにRSA暗号の記事が引っかからないように調べるといいと思います。 また、学内ネットワークからであればIEEE Xplore2という英語論文を数多く取り扱ったサイトから論文を閲覧できるので、読んでみてもいいかもしれません。 私同様に英語が苦手であれば、Google Chrome拡張機能等で翻訳して読むと、ある程度読みやすくなるかもしれません。

参考文献

  1. フォトニックネットワーク(建設電気技術協会)
  2. 波長分割多重(WDM,CWDM,DWDM)とは | ファイバーラボ株式会社(ファイバーラボ株式会社)
  3. 総務省|平成26年版 情報通信白書|フォトニックネットワーク技術に関する研究開発(総務省)
  4. Advanced Network Systems Labo.(先進ネットワークシステム研究室)