ネットワークとアドホックネットワーク
はじめに
工学院大学情報通信工学科 4年 先進ネットワークシステム研究室の清水です。研究室ではアクセスの分野を研究しています。アクセス分野は主に無線ネットワークを研究対象としており、例としてアドホックネットワークやセンサネットワークがあります。今回はネットワークとアドホックネットワークについて書きたいと思います。
そもそもネットワークとは
私たちが生活で当たり前のように利用しているネットワークについて、一度は考えたことがあると思います。例えば、パソコンを使っている時や家のWi-Fiを設定する時、サーバーを立てる時など現代の生活に深くネットワークは関わっています。では、このネットワークとはどのようなものでしょうか?昔の私はネットワークについて考えた際、パソコンだったりサーバーやルータ―などの端末自体を表す言葉だと思っていました。ですがそれは違います。ネットワークとは複数のパソコンを相互に通信させる仕組みなのです。
この仕組みには大きく2種類に分類することができます。では、次にこの2種類の仕組みを紹介します。
LANとWAN、それとインターネット
ネットワークは大きく分けてLAN、WANの2種類に分類することができます。
- LAN(Local Area Network) LANとは家などの狭い範囲内でパソコン同士が通信を行えるネットワークのことです。主にこのネットワークを利用できる人は限られており企業で例えた場合、建物の中だけで使用できるネットワークのことです。
下の図はLANの一例です。ルーター内のネットワークにいくつかのパソコンが接続されています。
- WAN(Wide Area Network) WANとは日本全国などの広い範囲内でパソコン同士が通信を行えるネットワークのことです。企業で例えた場合、建物の中だけで使用できるネットワークを別の場所に設立された同企業内ネットワークに接続できるネットワークのことです。少し分かりずらいので簡単に言うと、LANとLANをつなげたネットワークとなります。
下の図はWANの一例です。WANの中にLANが含まれているのでLANとLANが接続されています。
ネットワークの2種類を紹介しました。ついでにインターネットについても紹介します。
- インターネット インターネットとはWANに似たもので、WANの中だったりWANと同等として扱われたりしています。インターネットは世界中の様々なパソコン同士が通信を行えるネットワークサービスのことです。このため、世界中の様々な人が利用することができます。自宅のパソコンから海外の企業内ネットワークにあるパソコンに接続することもできます。
上の図はインターネットの一例です。インターネットではLAN、WANが含まれておりこの図はインターネットにLANが接続された図となります。
アドホックネットワークとは
アドホックネットワークとはパソコン、携帯電話などの無線端末で構成されたネットワークのことです。このネットワークは、ルーターや基地局を用いずに通信ができる柔軟なネットワークです。地震などの災害時に連絡用ネットワークとして活用できると考えられています。
課題点
このアドホックネットワークは、まだ研究中であり課題点が多くあります。課題点としてノード1が固定されているLANやWANと異なり、ルーターなどのノードが移動するため、重要なノードが移動した場合にネットワークが切断されてしまう問題があります。また、通信を行う端末が携帯電話などの無線端末であるため携帯電話の電池残量によってノード自身が消えてしまう可能性があります。最近ではネットワークが切断されてしまう問題も解決されつつありますが、主な課題なため研究が続いています。
最後に
今回の記事を読むことによってネットワークやアドホックネットワークについて少しでも興味を持ったり、知ってもらえれば幸いです。
参考文献
3.LANとWANって何が違うの?|ネットの知恵袋|フレッツ光公式|NTT
6.インターネットって何?|インターネットを使ったサービス|基礎知識|
脚注
OSI参照モデルとTCP/IPについて
はじめに
はじめまして。工学院大学 情報通信工学科4年 先進ネットワークシステム研究室の加藤です。今回はネットワークの勉強をしている方なら誰もが聞いたことのある「OSI参照モデル」と「TCP/IP」について説明します。
OSI参照モデルとは
OSI参照モデル(Open Systems Interconnection reference model)とは、国際標準化機構(ISO)によって策定された、通信機能を分類して階層化したモデルのことです。具体的には、通信に必要な機能を階層ごとに分け、プロトコルの役割をわかりやすく表記したものです。ここで言うプロトコルとは、ネットワーク上での通信を行う際の決まり事を定義したものです。 OSI参照モデルが策定される前は、各メーカーが独自のネットワーク仕様でやり取りを行っており、仕様の違いから異なるメーカーの機器同士の接続が困難になっていました。そのため、ISOはネットワークの普及を促進するべく、特定のメーカーに依存しない通信が実現できるようOSI参照モデルを策定しました。 OSI参照モデルは以下の表のように7つの階層で定義されます。
各層の役割を上位層から簡単に説明します。
- アプリケーション層
最も上位に位置するこの層では、特定のアプリケーションがどのように通信するかといった情報を渡す役割があります。 - プレゼンテーション層
通信しやすいようにデータを共通な表現形式に変換してからやり取りを行います。これによって、データの表現形式の整合性を保つ役割があります。日本語を扱える符号化形式としてShift-JISやUTF-8などがあります。この符号化が正常に行えていないと、相手はメッセージを正しく読み取れません。 - セッション層
データをどのように送れば効率よく通信が行えるか、データの送信方法をどのようにするかを判断して制御する役割があります。実際にデータを転送する処理はトランスポート層以下から行われます。 - トランスポート層
送信元から宛先までの通信を実現させる役割があります。 - ネットワーク層
送信元から宛先へのデータを転送する役割があります。例えば、ルータやL3スイッチには、どの経路を通ってデータを転送すべきか選択する機能があります。 - データリンク層
直接接続された機器同士でデータのやり取りを実現する役割があります。このデータリンク層で動作する機器には、ブリッジとL2スイッチがあります。 - 物理層
通信媒体を流れる信号の形式や通信媒体の物理的な仕様を定めています。物理層で用いられる機器の例として、リピータがあります。リピータは、信号の増幅を行い信号の到達範囲を広げる機能があります。
TCP/IPとは
TCP/IPとは、一般的にネットワークプロトコル群の総称を指します。具体例として、TCPやUDP、TelnetやFTPなど、TCPやIPに関係する多くのプロトコルが含まれます。TCP/IPという表記でTCPとIPという2つのプロトコルだけを意味する場合もあります。 OSI参照モデルでは実装するにあたって融通が利かなかったり、複雑すぎたりと様々な問題がありました。そこでシンプルかつ実用的な階層構造にしたものがこのTCP/IPです。現在のネットワーク通信ではTCP/IPが用いられています。
TCP/IPとOSI参照モデルを比較したものを以下の表に示します。
TCP/IPとOSI参照モデルは階層モデルに違いが見られます。OSI参照モデルは「プロトコルに必要な機能はなにか」を中心に記述されているのに対して、TCP/IPの階層モデルは「プロトコルをどのように実装したらよいか」を中心に記述されています。
TCP/IPの階層モデルについても各層の役割を簡単に説明します。
- アプリケーション層
OSI参照モデルにおけるセッション層やプレゼンテーション層、アプリケーション層の3つの機能はアプリケーション層にまとめられています。そのため、TCP/IPのアプリケーションプログラムの詳細を見ると、セッション層の機能やプレゼンテーション層の機能が見られます。使用される代表的なプロトコルとして、Webにアクセスするために使用するHTTP、メールを送信するために使用するSMTP、メールを受信するために使用するPOP3、IPアドレスの割り当てを行うDHCPなどがあります。 - トランスポート層
基本的にはOSI参照モデルのトランスポート層と似たような役割を持っています。トランスポート層の最も大事な役割は、どのプログラムとどのプログラムが通信をしているかを識別することです。このときポート番号と呼ばれる識別子が使用されます。代表的なプロトコルとして、データの信頼性を保証するTCP、速度重視のデータ転送を行うUDPがあります。 - インターネット層
OSI参照モデルの第3層であるネットワーク層と似たような役割を持っています。IPと呼ばれるプロトコルのIPアドレスを用いて宛先を判断し、データの転送を行います。また、エラーの通知や制御メッセージを転送するために使用するICMPがあります。 TCP/IPの階層モデルでは、このインターネット層と上位にあるトランスポート層はOSに組み込まれることを想定します。 - ネットワークインターフェース層
OSI参照モデルのデータリンク層と似たような役割を持っています。ネットワーク機器間でのデータの転送を実現させます。代表的なプロトコルとして、接続手段や規格を定義しているEthernet、2点間を接続して通信を行うために使用するPPPがあります。 TCP/IPでは、ネットワークで接続された機器間で通信ができることを前提として設計されているため、物理層に関する記載はありません。OSI参照モデルにおける物理層を含めるかは諸説あります。
おわりに
「OSI参照モデル」と「TCP/IP」について簡単に説明しました。「OSI参照モデル」はほとんど使用されていませんが、通信の基本的な考え方として理解しておくことは大切だと思います。 最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
乱数についてわかるようでわからない記事
はじめに
初めまして。工学院大学 電気・電子工学専攻修士1年 先進ネットワークシステム研究室の吉山です。 私の研究範囲もこれまでの2人と同様コアネットワークですが、私はコアネットワークとは少し離れた記事を書いていきます。 当研究室以外でも用いることがあるかも知れない内容になっているので最後まで読んで頂ければ幸いです。
今回は乱数について書いていきます。 大まかな内容は以下の通りになります。
- 乱数とは
- 乱数列と乱数列の型
- 乱数列の例
乱数とは
乱数にもいくつか種類があるため、この章で乱数の説明をする際は一様乱数というものを用いていきます。 まず乱数とは、読んで字のごとく乱れた数、つまりランダムな数ということです。
身近な例で言うと、6面サイコロが挙げられます。 サイコロは何か手を加えない限りは、投げるまでどの目が出るかわからない。 つまりランダムな数です。 また、サイコロの目が出る確率は一応完全な1/6となるため、結果は一様(全ての目の出る確率が同じ)になります。 このような乱数を一様乱数といいます。 コイントスも一様乱数です。
話は変わりますが、実は我々がプログラム等で出力している乱数は疑似乱数といい、真の乱数ではありません。 真の乱数とは、サイコロのように次の目を予測することが完全に不可能なものになっています。 プログラムで出力するような乱数は、シード値というものから計算を行って出力しているものです。 そのため、物理的に人の力を加えず乱数を生成することは不可能です。 世間一般的には、この疑似乱数も普通の乱数として扱っているため、豆知識として頭の片隅に入れていただけると幸いです。
乱数列と乱数列の型
乱数を数列にしたものです。 乱数列の各要素は乱数とも言えます。
例として乱数列は[1,4,6,4,3,3]のようなもので、この乱数列の中の1や4を乱数といいます。 また乱数列には以下の2種類があります。
- 離散型
- 連続型
離散型、連続型
乱数列には離散型と連続型というものがあります。 離散型とは、2つの任意の数の間の値が存在しえない乱数列の型です。
サイコロが出る目は1,2,3,4,5,6と固定で、1と2の間に値は存在しないため、離散型になります。 また生物学上の男性と女性は、間の値が存在しないため離散型になります。 離散的な値を取るため、グラフで表すと棒グラフであることが多いです。以下に例を示します。
次に連続型は、2つの任意の数の間の値が存在しうる乱数列の型です。 身長の150cmと151cmの間には150.5cmがあり、150cmと150.5cmの間には150.25cmがあるため、これは連続型となります。 また、50m走のタイムも人によってばらつきがあり、2人のタイムの間に他のタイムが存在する可能性があるため連続型になります。 これは連続的な値を取るため、折れ線グラフで表すことが多いです。以下に例を示します。
このように乱数列には離散型と連続型があります。 (クラスの身長は小数点第2位を繰り上げて1cm刻みや0.5cm刻みで表すことが多いため、その場合は離散型になります。)
乱数列の例
この章では乱数列、乱数列の一部について説明していきます。 非常に理解しやすいものや、ネットワークシミュレーションを行う際に必要なものを挙げていきます。
ベルヌーイ分布
男性か女性か、成功か失敗かのように2択しか選択肢のないものの乱数列をベルヌーイ分布といいます。 無限に続く小数が連続して出る可能性がないため、離散型になります。
二項分布
ベルヌーイ試行(2択の試行)を行った際に、ある事象が何回起こるかを表すものになります。 例としては表と裏しかないコインを5回投げた時に、表が2回出る確率等です。 無限に続く小数が連続して出る可能性がないため、離散型になります。
ポアソン分布
単位時間当たりの生起確率を示します。 生起確率とは、事象が起こる確率です。 無限に続く小数が連続して出る可能性がないため、離散型になります。 そしてこちらは、ネットワークシミュレーションで用います。 ネットワークの負荷を決定する際に、ポアソン分布で負荷を求めます。
例として1年間での1日あたりの交通事故死亡者数はポアソン分布で表せます。 下に例として挙げたもののグラフを示します。 非常にわかりやすかったので、参考文献のグラフをそのまま使わせていただきました。 (引用:指数分布とポアソン分布のいけない関係 | SlideShare | Nagi Teramoto)
指数分布
指数分布は事象の生起間隔の確率を示します。 生起間隔とは、ある事象が起こって次にまた発生するまでの間隔です。 こちらも、確率として表す値には中間的な値が存在するため、連続型になります。 こちらもネットワークシミュレーションで用います。 一つの要求が発生した後、次に発生する間隔を指数分布を用いて決定します。
例として、飲食店で次に来客が来る分布を示した図を示します。
ポアソン分布と指数分布の関係
どちらともランダムに起きる事象の確率分布になっています。 ランダムな事象に対して、発生間隔に着目すると指数分布、発生回数に着目するとポアソン分布になります。 また、指数分布が求まるとポアソン分布を求めることが可能になります。 式が複雑になるのでここでは書きませんが、気になる方がいたら参考文献の3を読んでみてください。
他にも確率分布は多くあり、関係性のある確率分布もあるため、こちらも是非調べてみてください。
おわりに
今回は乱数について書いてみました。 少しでも乱数についてわかっていただければ幸いです。 また、研究室での詳しい研究内容や、研究室の雰囲気、他の研究室について等気になることが少しでもあればこちらにリプライやDMください。 Twitter:先進ネットワークシステム研究室
ここまで読んでくださった方に、お令和申し上げます。
参考文献
光ファイバを用いた基幹ネットワークについて
はじめに
工学院大学 電気・電子工学専攻修士2年 先進ネットワークシステム研究室の関です。 当研究室では、主に新しいネットワークの設計や既存ネットワークの効率的な利用に向けた研究を行っています。 本記事では、光ファイバを用いた基幹ネットワークで利用される多重化方式(大容量の伝送路を複数の通信で共同利用する方法)を用いたネットワークの一部を紹介いたします。
- 波長分割多重方式 (WDM: Wavelength Division Multiplexing)
- 光直交周波数分割多重方式 (O-OFDM: Optical Orthogonal Frequency Division Multiplexing)
紹介内容
本記事では以下の2種類のネットワークついて書かせていただきます。
- WDMネットワーク
- エラスティック光ネットワーク
フォトニックネットワーク
フォトニックネットワークについて建設電気技術協会はこのように説明しています。
フォトニックネットワークは、ルータ/スイッチで行う伝送、多重化、多重化された信号の分離、スイッチング、ルーティングなどのネットワーク機能を、全て光技術だけで行うネットワークです。
また、従来のネットワークの問題点について、同記事で以下のように書かれています。
従来のネットワークは、伝送メディアに光ファイバを、信号の増幅に光増幅器を用いていましたが、回線のスイッチング(交換)だけは、光を一度電気信号に変換した上で電気的にスイッチングを行っています。ネットワークの通信容量のボトルネックは、この電気スイッチング性能において存在していました。
フォトニックネットワークについてまとめます。
- 伝送される光信号を光電変換を行わずにスイッチングし、目的のアドレスまで届けられるネットワーク
- ネットワークの通信容量のボトルネック(制約)である光電変換を行わないため、従来の電気-光ネットワークの性能をはるかに上回ることが可能
以上を踏まえて、多重化技術を用いたフォトニックネットワークについて述べます。
WDMネットワーク
従来のフォトニックネットワークでは、一つの光ファイバに一つの光を通し、これを点滅させて信号を送っていました。 これまではそのような構成のネットワークで伝送速度を上昇させていけば対応可能なデータ通信量でしたが、近年モバイルデータトラフィックの増加が著しく1、ネットワークに多重化技術を用いる必要性が生じました。 ここで注目されたのがWDMを用いたネットワーク(WDMネットワーク)です。 現行のネットワークはWDMネットワークです。
特徴
WDMネットワークでは、一本の光ファイバ内部に存在する一心のコアで複数の光信号を伝送します。 WDMのイメージ図を示します。 送信器側はそれぞれの送信機(半導体レーザー)から発せられる光を個別に点滅させ、それぞれの光を合波器(Mux:Multiplexer)により合波し、それを一心のコアで伝送します。受信器側は分波器(DeMux:DeMultiplexer)が受け取った光(合波された光)を合波前の光に分波し、分波後の光をそれぞれの受信器(光検出器)に送る処理をします。
特筆すべきことは一心のコアに複数の光信号をまとめて流している点です。
複数の光信号に色(波長)を割り当てることにより、一本の光ファイバで複数の通信を行うこと(多重化)が可能となりました。
従来のネットワークでは1つの波長で信号を送信するのに対し、WDMネットワークでは2つ3つ、それ以上の波長を用いて多数の信号を送信することができます。
CWDMとDWDM
WDMネットワークでは多数の波長を使うほど多くの信号を送信できます。 しかし、多くの波長を使うには一定の波長帯を狭い波長間隔で分割する必要があり、ネットワークを構成する部品等を高精度とする必要があります。 当然コストがかかるため、国際電気通信連合の一つである電気通信標準化部門のITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)では、用途に応じたWDMの波長間隔としてCWDMとDWDMの2種類を定めています。 CWDMとDWDMの波長間隔のイメージを示します。 信号A,B,Cがありますが、それぞれ利用する波長に相違ありません。 しかし、限られた波長帯をより多数に分割しているのはDWDMです。 したがってCWDMと比較してDWDMの方がより周波数の利用効率が良いと言えます。
雑にまとめると以下の通りです。
- DWDM:多くの波長を扱えるが高コスト
- CWDM:DWDMと比較して扱える波長は少ないが低コスト
項目のまとめ
WDMネットワークは、光ファイバそのものを増築せずとも通信可能容量の増加を実現しました。 その背景には通信に利用できる周波数資源の効率的な利用があります。 WDMにはCWDMとDWDMの2種類が存在します。 本稿はあくまで本研究室の研究テーマを理解する上で必要な知識の概要までしか触れません。 興味がある方は自分で調べてみることをお勧めします。
エラスティック光ネットワーク
帯域幅の需要が年々増加傾向にあり、2020年には1000Tb/s以上のスループットが必用である見込みが立てられています。 前述のWDMネットワークではこの需要を満たすことが困難なため、新たにエラスティック光ネットワーク(EONs:Elastic Optical Networks)が注目を集めています。 EONsとは、無線通信で利用されている多重化技術の直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を光通信に応用し、WDMネットワーク以上に周波数を効率に利用可能としたネットワークです。 現在は研究段階の技術ですが、多くの論文が発表されており、今後の基幹ネットワークを担う可能性が高いです。
特徴
EONsとWDMネットワークの違いを示します。 (引用:先進ネットワークシステム研究室)
この画像から読み取れるのはWDMネットワークとEONsそれぞれの周波数利用効率の違いです。
WDMネットワークでは限られた周波数帯域をいかなる通信にも均等に配分しているため、実際には使用されていない帯域が存在しています。対するEONsはそれぞれの通信に必要な帯域を無駄なく割り当てることで、未使用帯域を減少させることが可能となりました。
この画像はWDMネットワークとEONsの周波数利用効率を周波数帯域に着目して示したものです。 WDMネットワークでは、一つの通信を一定に分割した周波数帯域に一つの波長を割り当てて成し遂げていました。 EONsでは、一つの通信をさらに細かく分割した周波数帯域に複数の波長を割り当てて成し遂げます。 これにより少量のデータ通信に対し、余分な帯域を使用することは少なくなります。また、大量のデータ通信に対しても柔軟に対応することができます。 WDMネットワークと比較してEONsでは周波数帯域の余りを減少させています。 分数で言うところの分母を大きくしたというのが近いかもしれません。
研究室との関連性
周波数帯域をより効率的に利用できるEONsでも未だ解決されていない問題があります。 代表的なものがRSA問題です。 RSA問題とはルーティング(Routing)、波長割り当て(Spectrum Allocation)をいかに行うかを決定する問題です。この問題は多くの論文で議論されており、本研究室でもそれをテーマとした研究が行われています。 RSA問題が発生する理由は説明するのに多くの知識を必要としますので、本稿では省略させていただきます。 興味がある方は調べてみてください。 また効率的な解決案がある方は、ぜひお話を伺わせてください。
検索をかけるときは「RSA問題 エラスティック」のようにRSA暗号の記事が引っかからないように調べるといいと思います。 また、学内ネットワークからであればIEEE Xplore2という英語論文を数多く取り扱ったサイトから論文を閲覧できるので、読んでみてもいいかもしれません。 私同様に英語が苦手であれば、Google Chromeの拡張機能等で翻訳して読むと、ある程度読みやすくなるかもしれません。
参考文献
光通信を知ってほしい
はじめに
先進ネットワークシステム研究室について
工学院大学 情報通信工学科4年 先進ネットワークシステム研究室の佐藤です。 当研究室では無線ネットワークやフォトニック(光)ネットワークを中心とした新しいネットワークの設計や既存ネットワークの効率的な利用に向けた研究を行っています。 研究テーマとしましては以下をメインに進めています。
- フォトニックネットワーク
- SDN(ネットワーク機器の仮想化)
- 非常時の音声通信受付制御
- ネットワークセキュリティ
紹介内容
光ファイバの高性能さを知ってもらい、興味を持ってもらえたら嬉しいです。 冒頭の研究内容でいうところのフォトニックネットワークという分野にあたります。
以下、かなり簡略的な説明になっているところもありますが、容赦いただきたいです。
光通信・光ファイバってなんぞや?
光を使って情報を伝えること・通信媒体をさします。 現状、有線通信で世界最速の通信速度を出すことができます。
通信に用いる光ファイバは髪の毛ほどの太さのガラスやプラスチックなどでできた細い繊維です。 「クラッド1」と「コア」で構成され、中心のコアに光を全反射2させて通信をします。
光ファイバのなにがいいの?
信号の損失が少ない
電気信号を伝える同軸ケーブルは媒質(主に銅線)の性質から、1kmで電気信号の強さが半分になります。 それに対し、光ファイバでは光信号の強さが半分になるのは20kmです。 通信網では減衰した信号を増幅する機器を途中に設置しなければなりませんが、光ファイバならそういった機器の数を節約できます。 つまり光ファイバの誕生によって省資源で長距離通信が可能になりました。
通信速度が速い
光ファイバは、情報を光信号にして伝送します。 従来の通信では電線や同軸ケーブル3を通して、電気信号を伝送していました。
周波数という言葉を用いて考えれば光という通信媒体がいかに高性能かを理解できます。 周波数は1秒間の波の振動数を表しますが、この値が大きいほど多くの情報を乗せることができます。 例えば、通信における電気信号の周波数は大きくて100MHz4ほどですが、光信号の周波数は1THz5以上です。 ざっくり1万倍ほどの伝送速度を出すことができます。 さてそんな光通信ですがどんなところに用いられているかを次の章でご紹介します。
どこで使われてるの?
どこでも。
光ファイバは全世界6に張り巡らされており、一番身近な場所だと多くの戸建て・マンションへ引かれています。 ファイバそのものは地下を通っていたり壁の中に埋め込まれていたりするので、お目にかかることは多くはないです。 例えばNTTの光回線を用いた場合、NTTのビルから利用者宅へはいくつもの光スプリッタ7を介しながら接続されます。
下図のマンションやおうちへの配線の一例を示します。 図の中のONUは光回線終端装置といい、電気信号と光信号の変換を行います。 OLTは回線業者側に設置される電気信号と光信号を変換するための装置です。(2019/05/07 OLTの図と説明を追加)
我々が使っているスマホは電波[^7]による通信を行いますが、電波が届いた先つまり基地局8からは光ファイバで通信されています。 基地局には膨大なユーザの通信が集中するため、基地局以降の通信には大容量な通信に耐えうる光ファイバによる通信が必要なのです。
そこで基地局間通信のような大容量なデータを伝送することのできる光ファイバ技術の更なる改良と研究が求められています。
シングルモードファイバとマルチモードファイバ
光ファイバにはシングルモードファイバとマルチモードファイバという性格の異なる光ファイバがあります。 コア内の信号は信号の反射等で距離に応じて弱くなっていきますが、シングルモードファイバとマルチモードファイバでは減衰の度合いが異なります。 これらを使い分けて広範囲にわたって敷設されています。
シングルモードファイバ
単一の波長を伝送します。 コアの中心を主に通過し、信号同士の干渉もないため、長距離伝送の際の損失が極めて少なくなります。 数十キロにも及ぶ伝送にも耐えることができるので、基本的にはこちらのモードの光ファイバを用います。
マルチモードファイバ
複数の反射角を持った信号を同時に伝送します。
信号一つ一つの伝送速度は落ちますが、総合的なデータ伝送量を増やすことができます。(2019/04/26 不正確な情報であるため訂正)
シングルモードファイバと異なりコア端で複数の信号を反射させることと、信号の干渉等の影響で伝送距離は落ちてしまいます。
材質や安価であることから(2019/04/26 追記)建物内での使用に優れています。
研究室ではどういう内容を扱っているの?
光ファイバを用いた通信技術について研究室で研究を行っているのは全体の1/3程です。 研究室のHPから拝借した下図でいうところのココの領域で研究を行っています。
光波長分割方式
※興味があったら是非読んでみてください。
光通信では複数の光信号を重ね合わせて1本の光ファイバで送る技術(光多重)があり、更に大量のデータを伝送することができます。 光多重の中から光の波長(色)の違う光源を用いた光波長分割方式(WDM:Wave Division Multiplexing)を紹介します。 色とは言っても可視光ではないので見えません。 よって、ここで説明に用いる赤や青、黄色はあくまでイメージです。
波長が異なる信号を一度に伝送しても、送信側の合波器9・受信側の分波器10を介することにより信号をそれぞれ個別に認識し取り出すことができます。 この図の場合、1本の光ファイバで3つ分の伝送路を用意することができたということになります。 この波長の重ね合わせは使用する光ファイバによりますが、数個~数百個作ることができ、光ファイバの通信容量の拡大に貢献しています。
また、この光通信におけるWDM方式はコアネットワークとメトロネットワークにて使用されている技術です。
ネットワークの範囲について下表を参照してください。
ネットワーク類 | 範囲 |
---|---|
コアネットワーク | 長距離都市間、国家間通信網 |
メトロネットワーク | 都市内通信網 |
アクセスネットワーク | 数キロ程度の通信 |
最後まで読んでいただきありがとうございました。 研究室のことや紹介内容で質問等ございましたらコメント欄にてよろしくお願いします。